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東京家庭裁判所 昭和44年(少)5500号 決定 1969年5月22日

少年 T・J(昭二七・一二・二八生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(虞犯事由および虞犯性)

少年は、中学校一年生の頃から素行が不良化し、無断外泊、家出、不純異性交遊、窃盗などを頻発させたため、昭和四一年一二月教護院の群馬学院に収容され、昭和四三年三月同院を退院したのち、前橋市の食料品販売店に住込店員として就職し稼働していたが、その頃から再び遊び癖が出始めて理由もないのにわずか四月足らずで同店をやめ、いつたん家に帰つたものの家庭にも落ち着くことができず、同年七月父親がとめるのもきかずに北海道まで家出して睡眠薬自殺を図り、その時は警察に保護されて父親に引き取られたのであるが、少年は家に帰ることを嫌い父親と一諸に帰るのを強く拒んだため、北海道常呂郡の牧場で酪農を経営している父の友人の許に預けられ、牧場の仕事などの手伝いなどをしていたが、そこでも家出をして北見の街で知り合つた男と性関係をもつなど落ち着かず、結局、同年一二月下旬頃そこもやめ、その後父の友人の計らいで東京都目黒区の瀬○産婦人科診療所に家事手伝いとして住み込むに至つたところ、少年は、もともと遊び癖のあるうえ、新宿でフーテン仲間との不良交遊などを持つに至つて素行も一層悪化し、口実をもうけては夜遅くまで遊び歩き、外泊なども重ねたりしたため同院にも居られなくなり、昭和四四年四月○○日にそこもやめることになつた。そして、その際、少年は父や姉などから少年の最も慕つている次姉の許で暫く生活するように注意を受け、次姉の家に連れられて行く途中、父や姉の手を振り切つて新宿へ飛び出てしまい、その後は専らフーテン仲間と交わつて無為徒遊の生活を続け、深夜喫茶やゴーゴースナック、仲間のアパートなどに泊り歩き、フーテン仲間や通行人らと性的関係をもつ等不健全で怠惰な生活に耽つていたところ、同年五月○日の朝方、警察官に保護されるに至つた。

少年は、上記のとおり、保護者の正当な監督に従わず、正当な理由もないのに家庭に寄りつかず、不道徳な者との不健全な友交関係を続け、また不純異性交遊等自己の徳性を害する行為を繰り返していたものであり、その怠惰で遊興的な性格と不良な環境に照らすと、少年は将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をする虞がある。

(適条)

虞犯につき  少年法三条一項三号イ、ロ、ハ、ニ

少年院送致につき  同法二四条一項三号

(処遇)

少年は、知能的劣りはみられないが、性格的には自己中心的で自己顕示性が著しく強く、また抑制力に欠け、感情的で、協調性にも欠け、そのため、自分本位の考え方や行動をとり、自分の意に反すると非常に強い不平不満を持ち、反抗的になり、また物事を感情的に処理する傾向がみられる。少年は、そうした性格であるうえ、幼時から不安定な家庭に育ち、実母の病気、死亡により家庭は一層安定を欠き、また放任されたこともあつて家庭に対する親和感を失い、その反面において戸外に関心が向けられ、そこで種々の不良体験をしたこと、とりわけ早くから性関係をもつたこと、更には厳格な父との感情的な対立が生まれたことなどが加わつて一層遊興的な場への志向性を強め、現在では享楽本位に不健全な生活をすることが身について、極めて容易に悪環境に馴じむ低級な人格を形成して来ている。

少年の家庭はその後比較的安定をとり戻し、また家族もそれぞれ少年の保護には一応の関心を持ち、これまでにも少年の保護にはそれなりの方法を講じて来たが、少年が全くこれを受けつけず勝手な行動をとるため、現在では今後どのような方法で少年を指導して行くべきか、その方法を見失い、半ば諦めて積極的に保護する意欲を失つてしまつており、また、少年も家庭への帰属感を失つているのが現状である。

また、少年には全く反省心がみられない訳ではないが、非行に対する合理化や今回保護されたことに対する不平不満が多く、反省も極めて表面的なものでしかない。

以上要するに、少年はいまだ犯罪事実こそないが、虞犯性は極めて強く上記のような虞犯行為が習性化しており、このまま放置すれば悪環境のもとで容易に非行に走る可能性は極めて大きく、しかもそれが少年の上記のような性格に負うところが大きいと認められるだけに、補導委託をも含めて在宅保護によつては少年の非行性の進展を妨止し、その改善を図ることは極めて困難であり、予後の点をも合わせ考えると、この際少年を施設に収容し、職業補導その他の教育を通じて健全な生活慣習と社会性を身につけさせることが少年のためには最も良い方法であると思われる。そこで、少年を施設に収容することとし、収容すべき施設としては、少年の年齢、性格、非行性の程度等を考えたうえ、中等少年院とする。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 海保寛)

参考 抗告審決定(東京高裁 昭四四(く)一一八号 昭四四・六・二五決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年の差し出した抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。

所論は、原決定の少年を中等少年院に送致した処分は、少年が今日自力による更正の決意を固めていることにかんがみるも、重きに過ぎて著しく不当である、と主張するので、本件少年保護事件記録ならびに添付記録を精査して考察するに、少年は、すでに中学校二年在学中、無断外泊、家出、不純異性交遊、窃盗などにより教護院送致の保護処分を受け、群馬県立群馬学院に収容されたことがあるにかかわらず、その性格および生活態度に改善のみるべきものが存しなかつたばかりでなく、昭和四三年三月同学院の過程を終えた後、商店、牧場、産婦人科診療所等に雇われて再三にわたり就労の機会を与えられながら、正業に定着する意欲を欠いていずれも長続きせず、昭和四四年三月ごろからは新宿の深夜喫茶店等に出入し、最近においてはフーテン仲間に互して極めて不健全な環境のもとに無為徒食するに至り、その間、原決定説示のごとく、保護者の正当な監督に従わず、正当な理由がなく家庭に寄りつかず、不道徳な者との不健全な交友関係を続け、不純異性交遊等自己の徳性を害する行為を事としていたものであつて、前記各記録に現われた、少年の自己顕示性が著しく、自己中心的、感情的であつて抑制力と協調性を欠き、怠惰で遊興的な性格および不良な環境に照らすときは、少年が将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれのあることは明らかであつて、いまだ一六歳に過ぎない少年に対しては、規律ある生活環境のもとに、その性格を矯正して正常な生活態度に復せしめるための組織的な訓練と教育を施すと共に、その勤労意欲を涵養し、応分の職業を選択する能力を取得させる職業補導を行なうことが緊要と認められるが、少年の保護者にこれに応ずべき十分な監護能力を認め難いこと、少年が前記のごとく教護院送致の保護処分を受けながら、その成果にみるべきものの存しなかつたことなど本件各記録に窺われる諸般の事情をも併せ勘案すれば、少年の自力更正の決意を正しく助長し結実させるためにも、この際少年を少年院に送致して、その健全な育成を期するのが相当と認められる。それ故、右と同旨にいで、少年を中等少年院に送致した原決定の措置は、正当であつて、所論のごとく著しく不当であるとはいうことができない。

よつて、本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 山田鷹之助 判事 山崎茂 判事 中村憲一郎)

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